人形劇 葛尾大尽物語

人形劇葛尾大尽物語

 



 



第二場 その二





キジ   『こうして 聰通は、イネを迎えることとなりました。

      それから月日は流れて、三年目。聰通とイネは仲睦まじく、人もうらやむ夫婦

      (めおと)となったのでございます。ところが・・・。』


  (キジ、退場)


  (聰通、その後ろからイネ登場)


聰通   『どうしたのだ イネ、顔色がすぐれぬが・・・。』


イネ   『大丈夫でございます、だんな様。』


聰通   『しかし、下男どもが言うておったぞ。「おイネ様は、まるでかぐや姫のよう。

      月を見上げては、時々泣いておられる。」とな。何か悩みがあるのなら、何

      なりと話してみよ。』


イネ   『だんな様 お気を悪くせずに、聞いてくださいますか?』


聰通   『もちろんだ。』


イネ   『イネが、この地に嫁いで三年が経ちました。お優しいだんな様、何不自由の

      ない暮らし。イネは本当に幸せ者でございます。この上の望みなど、バチが

      当たりそうで・・。(うつむく)』


聰通   『遠慮することは ない。お前と私は、夫婦ではないか。お前の寂しい顔など

      見たくはない。いつも白百合のように微笑んでくれるお前が、私は好きなの

      だ。さあ 話しておくれ。』


イネ   『はい。誰にでも忘れられない風景というものがございます。私は比叡山や大

      文字山など、京の山々を見て育ちました。ことに桜の頃は美しく、私は京の

      都に生まれたことを本当に嬉しく思っておりました。

      長じてからは、父の商いのお供をして、近江にも度々出かけました。その折

      に見た、近江八景も忘れられない風景の一つでございます。

      ここ、葛尾に来たことを悔やんではおりませんが、時々京の都のたたずまい

      が 無性に恋しくなります。京の山々に陽が昇り、陽が落ちる。時と共にう

      つろう その風情が懐かしくて・・・ 夜ともなると、たまらない気持ちに

      なるのでございます。』


聰通   『そうか・・・。お前は、それほどまでに都を愛しておるのか・・・。知らな

      かった。

       (聰通、しばらく考えて)

      それならば、ここに都を作ろうではないか。』


  (イネ、聰通の言葉を、わかりかねて)


イネ   『はい? だんな様、それは、どういうことでございますか?』


聰通   『イネ、半年待つが良い。半年の後には、ここ葛尾にお前の好きな風景を作っ

      てやろう。そうすれば もうお前は泣かずともすむ。』


イネ   『そんなことが出来るのでしょうか?』


聰通   『できるとも! やってみせるとも! 』


  (二人、退場)


  (キジ、スッと舞い降りて)


キジ   『それから半年後、聰通の屋敷には なんと近江八景を模した、大層立派な庭

      園が造られたのでございます。

      イネがこよなく愛した桜も、京都から運ばれました。春には、美しい花を咲

      かせた桜の木を、イネは どんな想いで見つめたのでしょう・・・。』


  (聰通・イネ、登場)


  (妻に、庭を見せて)


聰通   『イネ、どうだ?』


イネ   『まあ・・・。(しばし、絶句)

      だんな様、私が小さい頃から見た風景、そして桜の花は、まさしくこの姿で

      ございます。イネは、イネは・・・何という幸せ者でしょう。(泣く)』


聰通   『そうか。なあ イネ、私はここに能舞台を作ろうと思う。都から、能や狂言

      を呼び寄せよう。そうだ、大文字焼きに見立てて、向かいの蟹山で 野焼き

      もやろう。

      お前の雅びな心が枯れぬよう、お前が愛した風情や文化を、私も愛そう。夫

      婦とは、そういうものではないのか?』


イネ   『はい。イネも、ここ葛尾の良さを、この身に染み込ませましょう。誰よりも、

      だんな様のために・・・。』


  (二人、見つめ合う)


キジ   『聰通が、愛しい妻イネのために取り入れた、庭園や能・狂言などは、奥州の

      地 葛尾に洗練された、あでやかな文化を育てることとなりました。

      そして、遠く 京都から運ばれた桜は、「京桜」と呼ばれ 村人に親しまれ

      ることとなりました。聰通が植えた桜は、昭和の時代まで花を咲かせ、その後

      枯れてしまいましたが、現在でも大尽屋敷跡の近くには、その子孫と言われる

      桜が見られるそうでございます。

      それは、図らずも聰通とイネの夫婦愛の結実 とも言えるのではないでしょう

      か?

      さて、これより時は更にくだり、七代目三九郎 兼通の頃へと、物語は進む

      のでございます。』


 


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